あの坂本龍馬も通ったという北辰一刀流の始祖千葉周作の半生を描いた物語.同じ司馬作品「竜馬が行く」をでは脇役でしかなかった北辰一刀流の始まりが主役.これを知れば「竜馬が行く」の味わいもまた変わってくると思う.
万物は流れの中にあって人間という存在も常に流転していく物質の淀みにすぎない.福岡伸一先生の「動的平衡」シリーズで得た自分なりの”人間とは何か”に対する答えのようなものだが,この司馬先生の本で描かれる千葉周作からも同じものを感じる.これだけでも千葉道場に奥行きが出てくる. 構え・眼・動きは三位一体のものであり,別々に考えるようなものではない.これは生命を分けてもわからないという動的平衡の考えに通じるものがあった.
剣というものが日本文化に息づいてきて,宮本武蔵,伊藤一刀斎などの剣豪・流派が出来てきた中で,新たな流派を産み,大きくして行く過程での人間の気構え・運・必要な要素などが鮮明に描かれている.これは現代だからこそ知っておくべき教養としての内容を含んでいると思う.今特にIT系の分野では東京大学をはじめとしてベンチャー企業が多く産声をあげる様になっている.一方でシャープの一部再上場の代表される様に依然として古参の大企業も健在な世の中で,会社としてその存在感を大きくして存在を明確なものたらしめるのに何が必要なのかを教示してくれる教科書になる存在だろう.