1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

「看護婦が見つめた人間が死ぬということ」を読んだ

いくつもの死を見てきた看護婦がその実例を文章にする中で,自身が死というものをどう捉えているかが描かれている,とても考えさせられる一冊だった.
看護婦が見つめた死なので一例を除いては病気でなくなった人たちの実例で構成されてはいるものの,病気や症状だけではなく患者の周りの人間模様まで描写されていた.周りの人間の描写では特に冷淡な人間関係を描いたものが多く,自分はこうはならないだろうとは思うものの,一種介護疲れや疲労が溜まった時,余裕がなくなった時には身内である患者に対しても辛い行動・言動を取ってしまうのではないかと不安を感じざるを得なかった.本の中で描かれていたことではあるが,日々なるべく後悔の内容に過ごすということが難しいがいざという時には大事になるものだと思わされた.
そんな話とは対照的にたった一例だけ,老衰による死の一例があり,こちらは他とは全く逆の色彩を放っていた.もはや患者とは呼べないのかもしれないが,九十五歳を数える女性が3日起きて3日寝ている状態から徐々に呼吸が弱くなっていきついに亡くなった時,そばにいた娘の抱いた感情と筆者が達した死というものへの境地,ここだけでも一見の価値がある作品だと思った.
この本を読んで思い出したのは,確か森博嗣先生の作品,S&Mシリーズに出てくる真賀田四季博士か百年シリーズに出てくるデボウ・スホのセリフだったと思うが,「死を恐れている人はいません,死に至る生を恐れているのよ.」を思い出した.きっとこの本の作者も同じ境地に至ったのだと思う.死そのものは怖くない,死と隣り合わせの生が怖いだけなんだろう.