1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

森博嗣「血か,死か,無か?」を読んだ

 ちょっとだけ読もうと思ったのに気づいたら読み終わっていた.いつも通り森先生が普段から色々なことを常に考えている,というか思考している方だということを感じさせられる内容だった(その最たる例は「犀川はすぐに答えた.」の一文だと勝手に思っている).
 前から3/2ぐらいはいつも通りというかWシリーズらしい展開で相変わらず面白いなという展開だった.それが後半で急展開していって半分以上序章でしかなかったジャンと言いたくなるようなところまで行ってしまった.
 ネタバレになってしまうのであまり書かないが,ぜひこの本を読む前に百年シリーズを読んでおいた方が良い.急に切なくなってきた.ロイディに会いたい...

立花隆「知的ヒントの見つけ方」を読んだ

 氏が2013~2017年頃にかけて雑誌に投稿した記事のまとめだった.従って今読むと若干内容の古いものや予測外しているものが見られるものの,非常によく取材された内容で他の記事よりも完成度が高いと思う.
 氏が記事中でも書いている通り,日本を科学技術立国と評した内容にはかなり楽観論が入っているように感じた.部品や素材としての日本の強みも数年前ならいざ知らず今となってはそこまでの強みではないだろう.また地熱や太陽光発電などの技術革新に対する期待も今のところ氏の予測ほどには進化していない.
 この手の書籍は悲観的になるほどに日本の問題点が浮き彫りになりある種メッセージ性の強いものになると思っているが,ややそれが薄れているように感じた.

福岡伸一「せいめいのはなし」を読んだ

 福岡先生の本は有名どころは全て読んでしまったから,どこかで聞いたことのある話ばかりだけれど,それでも面白い.本書は複数の人物との対談の形を取られているので,自分が本を読んだ時には考えもしなかったこと,理解できていなかったことがわかりとてもお得感がある.  最初の対談相手,内田樹先生との話では原因と結果についての話題で特に考えさせられるものがあった.動的平衡に基づいて考えると原因と結果は鮮明に別けられるものではなく,それら二つが混ざり合って結果今ができているという.これはデータ分析において非常に致命的な問題で,これが成り立たないならば本来は機械学習統計学などはありえない.今統計が成り立っているのはおそらく個を見ずにマスを見ているからだろう.これからパーソナライズが進めばきっとこの学問・手法は破綻する.基本的には過去の事象から未来を予測するしかないが,個々の人間の振る舞いを個々に予測しようとすればするほど正解からは遠ざかって行くのだろう.この矛盾を解決できる手法がそのうち学問として生まれてくるのだろうか.
 この本で印象に残っているところは川上弘美さんとの対談で,"理解"とは何かについて語っているところや川上さんが福岡先生の本を読んで理解したものについて語っているところ.特に"理解"についての記述は鮮烈で,部分として認識するのではなく,全体として認識できた時にもっと深い理解に達するというのは真理であるように感じた.
 四人目の対談者養老孟司先生との話も学術的に非常に面白い内容だった.特に昆虫の擬態から見た進化の理由の考察が面白かった.人間の目から見ると擬態に見えるけれど,天敵は人間と同じ目の構造をしていないから実は周りの環境に適合しているように見えているのは人間だけだという話にはハッとさせられるものがあった.でもそれを抜きにしても地域ごとに昆虫の色合いに特徴があったりある種の制限があったり,ダーウィニズムでは説明のできない生命多様性があるという話を聞くと科学は万能ではないし,神ではないにしろ生命体には何かしらの見えない力が働いているのではないかと疑いたくなってしまう.また情報化時代は時間を止めた社会になるという話だったがこれがいわゆるAIとか機械学習全盛の時代が来れば音楽と同じで流れの中で情報を掴む時代になるのではないだろうか.
 「動的平衡」は単純に細胞が絶えず入れ替わっていて,その入るのと出て行くスピードがバランスが取れているがためにあたかもそこに生命が物質という形で存在しているように見えているという話かと思っていたけれど,それでは理解の半分ぐらいだったらしい.最終章での福岡先生曰く,細胞同士が相補的に関係と作っていてその中で平衡状態が保たれていることが必要らしい.

西部邁「保守の真髄」を読んだ

 冒頭の解題から,なんだこの文章はと思えるような強烈な表現・難解な表現のてんこ盛りで著者の並々ならぬ想いというか魂の叫びのようなものが重くのし掛かってくるようだった.
最初の数章を読んでみようかと思っていたが文章にあてられそうだったので,一度解題で本を置いた.ここまで漲ったものを感じる書を手にするのは滅多にあることではない.
 一章の冒頭読んでみたけど,もうちょっとマシな人かと思ったらただスマホ使いたいけど使い方わかんなくて悔しいから吠えてるだけの人っぽいな.

 言葉の定義にやたら難癖つけてて,論理は妄想の上に妄想を重ねている.議論に値しないような内容まで書かれているので結局著者が何が言いたいのかわからない.考え方が固まりに固まってしまった頑固親父が昔は良かったって言ってる事ぐらいしか理解できなくて途中で読むのやめた.

佐藤優「一触即発の世界」を読んだ

久しぶりに氏の著書を読んだ.これまでの著書と違わず新聞や報道からどのように情報を読み取るかについての知見に面白さがある.もともと外務省でソ連を担当していただけあって毎回ロシア関係の著書が多く,今回の著書も安倍総理プーチン大統領山口県での会談や北朝鮮に関するものがほとんどだった.
ところで毎度のように氏が日本に危機が訪れているような発言をしているものの,本を読んでいる時こそこれは,,と思うものの一度読み終えてしまうと全く印象に残らないのは何故だろうと考える. と,改めて考えてみると恐らく現代危機的状況にあるのは北朝鮮問題だけではないからだろうなと思った.北朝鮮が暴発して戦争が始まったり,核ミサイルを打ち込んでくればそれはそれで大惨事だが,かといってその確率は今すぐ疎開しなければならないほどではないなと思ってしまうし,それよりも一度外に出れば非常なストレスに晒される日々を生き残る方が余ほど大変だ.いっそ世界がなくなってしまえばいいのにと自虐的に考えている人も少なくないだろうな.

司馬遼太郎「最後の伊賀者」を読んだ

タイトルは忍者ものだけど中身は短編集で最後は道頓堀の由来にまで発展していった.司馬先生の忍者モノといえば「梟の城」が好きだったけど,久しぶりに忍者モノ読んでみると忍術っていうのはいかに人を幻惑させるかにかかっているのがわかる.
あとは円山応挙・呉春の話とか学校の授業で習うよりも司馬先生の本読んだ方が記憶に残るし,面白いなと毎度のことながら思った.

司馬遼太郎「王城の護衛者」を読んだ

 会津藩藩主松平容保の伝記を中心とした短編集.学校の教科書では描かれていない会津藩主の家柄や幕末京都守護職を受け入れるまでの松平春獄一橋慶喜との問答・葛藤が面白い.政治謀略や謀を得意とした長州藩薩摩藩と比して会津藩及び容保はその方面に置いては全く幼稚で何もできないどころか知りさえもしない人物になっていた.
 その他は大村益次郎河井継之助,人斬り以蔵の話だったのでこれはこの本に収録されている短編を読むよりはそれぞれの「花神」「峠」を読んだ方が良いと思う.