湊かなえ2冊目.これまた複数の視点で進行していくスタイルで,二人の少女のすれ違いを描いた物語でした.前作の「告白」ほど生臭い感じはしなかったにせよ,認知症やそれを取り巻く家族,痴漢の冤罪被害など少し前に話題になった社会問題を構成要素として取り入れてました.
大雑把にいうと登場人物の心理描写が細かく描かれていましたが,なんというか,現実でもこんな感じなのかなぁという感想でした.女子高生など経験したことないからよくわからん.
ところでこういうミステリーでも,恋愛でも,SFでもない小説のジャンルってなんていうんですかね?これこそ純文学なのか?
湊かなえ「告白」を読んだ
最近色々なところで名前を聞いたので読んでみました.最初は人間の内面を描いた独白かと思いましたが,章が進むに連れで全く違う様相を呈しました.
話は校内で娘を亡くしたある女性教師の挨拶から始まりますが,章ごとに目線がどんどん移っていって最終的には教師の復讐劇に落ち着くといった内容でしたが,なんとも読後感の悪い印象を受けました.おそらくテーマとしては少年法やマスコミの報道姿勢,復讐とは何かみたいなものだったと思いますし,色々と考えさせられるものがあったもののなんというか読み終えてみるとお腹一杯ですね.
ただ人物描画の書き分けは目を見張るものがあって,様々な登場人物をここまで詳細に書き分けられるものなのかと思わされた.一言だけ付け加えておくとさすがにモンスターペアレントはさすがに誇大な感じがしたが,今の親ってのはあんなもんなのかしら.
森博嗣「天空の矢はどこへ?」を読んだ
Wシリーズ最新刊を早速読みました.
最近の森先生の本は過去の作品の点が線のように繋がっていくパターンが多くて全刊などは最後の最後に吃驚させられましたが,今回はそのパターンは大人しめでした.
ただその代わりと言ってはなんですが,「すべてがFになる」の現実ってなんでしょう?とか「スカイ・クロラ」のどうして僕はそんなことが知りたいんだろう・・・みたいな散文的な表現に近いものが散見されてちょっと素敵な刊になっていました.いつか絶対読み返したくなるヤツだコレ.
あと躰から遺伝子についての考えの一旦も垣間見えて面白かった.リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」を読んでいるとこのあたりの考え方により一層関心が増す.
福岡伸一「プリオン説はほんとうか?」を読んだ
狂牛病やスクレイピー,ヤコブ病の原因とされるプリオン説.今の所この説を唱えた学者がノーベル賞を受賞しており,様々な検証結果から真実に近いと思われているものの,本書ではそれに疑いを持った今一度様々な角度から検証をしている.
本書の最後では福岡先生の行った検証実験の内容も乗っているがプリオン説を覆せるような結果は得られていない様子.10年以上前の本だから今はどうか知らんが..
いずれにせよ狂牛病が流行った当時はなんとも思っていなかったが,こうして色々な症例や病気の内容を読んでみるとかなり怖い部分があるなと思わされた.潜伏期間が数年単位でかなり長いことからするとそのうち日本でもヤコブ病が大量に発生するかもしれんなぁと思ったり思わなかったり.
この本は福岡先生の他の書と比べるとかなり専門的で読者を楽しませようというよりは必死に内容を伝えて何かを訴えたいと感じるものがあった.内容的に理解するにはもうちょっと高度な知識が必要だと思った.
R・ダグラス・フィールズ「もうひとつの脳」を読んだ
DeepLearningが脳のシナプスの動きを模した機構を備えており,その学習力がAIを産む可能性まで示唆されている昨今で,実はニューロンだけが脳の動きではありませんでしたというなんとも刺激的な内容だったので読んでみた.
読んではみたもののニューロンの動きをそこまでダイナミックに変えるような話じゃないかなという気がした.結局グリアというこれまでニューロンの構造を支えてるだけの物体だと考えられていたものが実は化学反応によってシナプスの動きを制御したり,記憶や脳の構造形成にも関わっていたらしいという話だった.またシナプスと違ってこの細胞はニューロンの配置を変えたり,化学反応によって別の場所の細胞とやりとりをしているらしく,それだったらDeepLearningのfull connectで係数の大小で表現できているかなと思う.
あとはてんかんとか病気との関連の話も大量に出てきて全く読み進まなかったので結構飛ばしながら読んだ.
森博嗣「ψの悲劇」を読んだ
シリーズ新刊を早速読んだ.シリーズの初期と比べると随分と顔ぶれが変わってきたし世界観も修正が必要になってきている.
まず犀川先生や西之園萌絵はもういない.真賀田博士ですらすでにプロトタイプなのかは怪しい.かろうじてS&Mシリーズのメンバで出てきているのは島田文子ぐらいになってしまった.それも真っ当に登場しているかと言われるとかなり怪しい展開だった.
今回の作品は主人公の目線が若干のギコなさで展開されて行き途中まではまあ予想通りだった.最後に向かうにつれ徐々に主人公の内面に描写がフォーカスされていっていつもの森先生の作品通り色々考えさせられるものがあった.終盤に出てくる<わかりません>は秀逸だった.
でも最後の最後どんでん返しには意表を疲れて絶句してしまった.