1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

村上春樹「アンダーグラウンド」を読みながら彩瀬まる「やがて海へと届く」を読んだ

 後者の「やがて海へと届く」をだらだら読んでいたところ,地下鉄サリン事件の首謀者達に刑が執行され,その過程で村上春樹の「アンダーグラウンド」がサリン事件の当事者達へのインタビューであることを知り,平行で読むに至った.
 アンダーグラウンドは当日地下鉄に乗り合わせて実際に被害にあった人たちの証言だけに非常にリアルで当時の状況が目の前に浮かんでくるようだった.すでに20年以上前の本であるにも関わらず読むべき価値はあるし,まだまだ教訓として何も活かせてはいないと思わざるを得ない.特に筆者と複数の証言者から出ていたマスコミへの不信感,真実を全く伝えていないという憤りは鮮明に伝わってきた.また多くの人が身の回りで起きていることを統合的に捉えることができず,直近の仕事を優先している様は意識改革のようなものの必要性を考えさせられた.
 今回このアンダーグラウンドを読むにあたって読書終盤に実際に小伝馬町駅まで行ってきた.さすがに20年も経っているので売店は見当たらなかったし,雰囲気も当時と違うのかもしれないが,改札がホーム中央にあるあたりは変わっていないし,駅から出たあたりに植木がしてあるのも確認できた.当事者の証言ではサリンの影響であたりが暗く見えている描写が無意識のうちに暗い構内をイメージしていたが実際はそんなことはなく普通の明るい構内に等間隔に柱が立っている至ってシンプルな作りの駅だった.ただこの3両目付近にサリンの入った新聞が蹴り出されていたのだとしたら改札に相当近い場所になり逃げる人の多くがその被害にあったであろうことが容易に想像できた.
 今回このアンダーグラウンドとたまたま平行して読んだ「やがて海へと続く」は,明記はしていないものの東北の大震災で行方不明になってしまった友人・恋人の話だった.帯にも書いてある通り,居なくなった人間に対して残された周りの人間の葛藤や故人との記憶,それらを通しての自分と他人との距離などを描写した作品だった.ちょうどサリン事件の数ヶ月前に起きた阪神大震災とオーバーラップするような形で作品を読んでしまったが,それ以上にアンダーグラウンドの最後の証言者に亡くなった方の両親・奥さんの証言が載っていたため,余計にこの2つの作品がオーバーラップして脳裏に刻まれた.
 あまり詳しくは書かないが,直感的に思ったのは事実は小説よりも重くて簡単に消化できるものではないということだった.これまで映画などの映像作品よりも小説の方が情報量が多いと思っていたが,それ以上にノンフィクション作品が心にズシンとくるものがあると思った.