1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

司馬遼太郎「北斗の人 下」を読んだ

 江戸後期に千葉道場を開いた千葉周作の伝記.奥州に生まれた周作が剣のみでいかにその流派を完成させ,江戸に大道場を開いたかが司馬先生の手で小説の様に語られている.
 江戸時代の道場が今でいうサービス・商品と非常に類似点が多いことがよくわかる.繁栄していくためには人を集めなければならないこと,人を集めるためには宣伝をしなければいけないこと.剣は身につけるものであるがためにその宣伝文句がひどく曖昧で神秘的なものになっている点,稽古の仕方が合理的なものではなく伝統的なものになってしまっている点などは今の大企業に通じるところがあると思う.ただ一点異なっているのは復讐だろう.今のご時世競争に敗れれば会社が潰れるだけだが,この時代は負けた時に大いに言い訳をして,勝者を闇討ちしてしまう物騒さがあった.  なのでこの小説は江戸時代の物語としてだけではなく,現代の個人の成功物語としても通じるものがあった.特に一個人が江戸で大道場を開くに至る経緯などはGoogleAmazonFacebookの成功物語に非常に近いものを感じた.そしてその成功の過程でただ他流派よりもちょっと優れていただけではなく圧倒的な勝ちを納めていったところに共通点がある様に思われた(いわゆる司馬史観なのかもしれないが).
 ただ現代の大企業の創業者の伝記の様に成功までの物語が仔細に描画されている訳ではないので願わくば周作が強くなっていく過程をもう少し詳細に知りたい読後感に襲われた.