1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史 上」

  • 選書理由
     読書芸人で紹介されていて読んだことない分野だったので購入してみた.
  • 書評
     ホモ・サピエンス発生の話から最後は近代の帝国の話まで非常に幅広いというか時系列的に長い話がまとめられていた.最初のホモ・サピエンスネアンデルタール人などの他の人類種を倒して唯一の人類として残っていく過程に,虚構が生み出されたという話は非常に面白かった.が,日本人としては今日は民族として共通言語となりうる明確な宗教を持っていないため,今ひとつ説得力に欠ける部分ではあった.もし著者が日本生まれだったらこの発想には至らなかったのではないかと想像できる.
     人類は帝国に支配されていた期間が長かったという話も今更ながらに気づかされてハッとした内容だった.今の世界中の文化がこれまでに存在した帝国の残骸のようなものであり,もともと存在していた無数の文化がすでに跡形もなく消滅しているというのは,多様性が生存戦略の一つになっている生き物のセオリーとは反対の方向を向いており,要因とそこから起こる未来について考えさせられるものがあった.
     作中で帝国はその欲望が収まるところを知らず,故に他国を飲み込んで大きくなったという描写があったが,これは現代でも同じことだと思われた.ただ現代は実際の領土や人間をその支配下に置く必要がなく,ネット上での情報・金・市場の独占をしたものが支配者になっているだけで,国や民族ではなく今や企業が帝国になっている.それ故に人の血が流れる必要がなく,全てヴァーチャルな世界で閉じてしまっているので,人々に気づかれにくく,それ故に大規模な独占という名の奴隷化が怒っても誰も文句を言われないのが実情だと思われた.そう捉えられた時,今人類は幾多の戦争を経て,賢くなった故に血を流すことが減ったのではなく,その必要がなくなっただけで,これからもしまた生身の人間や土地・空間などリアルな世界での価値が高まれば平気で戦争を始めるのではないかと思った.人類は本当に進化しているのだろうか.もしかしたら帝国が多種多様にあった民族・文化を少数にしてしまった時から進化の袋小路に迷い込んでしまっているのかもしれない.
  • メモ
     サピエンスが他の人類を一掃してしまったのに脳の発達,虚構,物語を産み出したことを理由としてあげているのはとても面白い.一点気になったのは集団をまとめるにあたっては共通の物語が必要でそれが宗教だったと主張している点で,日本人からするとすんなりは納得できない.おそらく日本人には他の国の人とは違う共通の物語(天皇とか)があるのだとは思うが,宗教しかないという決めつけた描写は著者の視野の狭さが露呈するものだった.