福岡先生の他の著書でも何度か紹介されているドリトル先生の故郷から出発し,ナチュラリスト,日本語では博物学者とはどういう人なのかを様々な実在の人物を紹介しながら考察した本. 私自身は機械や電子回路といった方向に幼少の頃から強い興味を抱いているので昆虫などの生物について夢中になることはほとんどなかったが,昆虫に興味を抱くということは突き詰めていくと生命とは何かという問にぶつかり真に奥が深い分野だと思った.対象的に機械や回路などを相手にすると行き着く先が人間の創造物にしかならないのでそのあたりで深みが違うなあという気がした(これがロボットとなるとまた生命とはみたいな問にぶつかるので話が別). いずれにせよ例の「羆撃ち」を読んで以来,フィクションものの小説は全く面白くなくなってしまったし,やれ殺人事件の真相だのどこかの組織の闇だのといった暗いノンフィクションものにも興味を抱けなくなった.というか単純に読んでも面白くない.これからはノンフィクションの明るい感じの書物を探していくことにした.
立川談四楼「ファイティング寿限無」を読んだ
一万円選書の一冊.落語家でありながらボクサーとして世界チャンピオンになるというフィクション物. 普通の小説だった.小説の中で主人公が落語家なのかボクサーなのか迷っていたように,落語家としての描写もボクシングの描写もどっちつかずで試合が始まったと思ったら夢オチのように勝っているパターンが最後まで続いてあんまりおもしろくなかった. 題材としては師匠の死を予感しながら世界チャンピオンに上り詰めて,最後師匠の死に際に会えなくて...みたいなストーリーだったが20歳前後の若者らしい苦悩がさらりと書かれているだけで濃厚な感じもないし時間つぶしにはなるかなという程度.
リテールAI研究会「リアル店舗の逆襲」を読んだ
最近ニュースで見かけるトライアルカンパニーやサツドラなどの店舗での取り組みが紹介されており,同社が何を考えどういう店舗を作っていく思想をもっているのかがわかりとてもおもしろかった. ただ注意して読まないといけないのはAIという言葉が定義曖昧なまま乱発されている点で,本の構成としては数人の筆者による個々の論文の掲載になっているのだが人によって意味しているものが全く違う.章立てが店舗・メーカー・卸の3つに別れているが,読めるのは先に書いたトライアルなど店舗編と最後の卸で,メーカー編はひどい.AI分析なるなぞのキーワードが出てきてなにを分析するのかと思えば最適化推論を分析と読んでいるらしかった.バカなの?さらにこの章では今ではすっかり定着した感のある協調フィルタリングをAIというワードに置き換えただでのお粗末なものでありこんなもの読むぐらいだったらくだらないお笑い番組でも見ていた方がマシというレベルだった.
角幡唯介「極夜行」を読んだ
太陽の登らない極夜のグリーンランドを立った独りで旅した冒険家のノンフィクション.先に読んだ「羆撃ち」に感化されて読んでみた. というのも本を読み出してからずっと読んでいた本が人生の失敗談や死に瀕した話などどうも気が滅入る作品ばかりだったということに気づいたわけで,そういったものじゃなくて人生の赤裸々な体験談や経験談から生きる活力になるような話を身に蓄えようと思ったのがきっかけ. 一言で感想を述べると「羆撃ち」が如何に素晴らしい本だったかを再認識しただけだった.本の内容的には目的地点には到達できなかったものの,波乱万丈の中で極夜の真髄まで体験し命からがら生還するというすばらしいものだった.だが,如何せん文章に飾りが多すぎる.率直に書いたりもう少しありのまま表現すればいいところを回りくどくいろんな表現で書き現したり,婉曲な表現つかって例えてみたりで冒険内容の割に全く心に響いてこなかった.おそらく先にこちらの本を読んで後から「羆撃ち」を読んでいれば感想もまた違ったものになっていたかもしれないが,さすがに「羆撃ち」が本物過ぎた.文章がきれいに書かれていることは誰の目にも明白すぎるほど明白なのだが肝心な内容は伝わってこなかった. というわけで改めて「羆撃ち」のすごさと人の心を打つ文章っていうのは飾った文章じゃないんだなってのを痛感しただけだった.
前も上げたけどこっち読むべき.こっちは圧倒的.普通の小説が読めなくなる程度に本物.
久保俊治「羆撃ち」を読んだ
一万円選書の一冊.すばらしい本だった.自然とは何か,命とは,生きるとは何なのかが克明に描写されている良書だと思う.プロのハンターとして山に篭り,五感を研ぎすませることによって山と,自然と一体になりながら羆や鹿といった獲物を追っていく姿が見事に描き出されており,羆を斃したその場で食す心臓の旨いという描写などは消して小説では描ききれないであろうものだった. これは普通に教科書などに載せて生命とは,自然とは何なのかを教えるのに素晴らしい経験談になるだろうと思われる.おそらく一万円選書の中でも,そしてここ数年で読んだ数百冊の中でも秀逸な一冊だった.
アニンディヤ・ゴーシュ「Tap」を読んだ
面白い本だった.主に2016年に書かれている話しなので若干古いと感じる部分はあるものの,モバイルの可能性を的確に書いているように思った. 確かに位置情報データがあればもっといろんな情報,特にWeb広告が自分に関連したものになって有益な情報に変化することは間違いないだろうな.今のよくわからんけど位置情報取られてるからこわいとかいう思考停止な感覚が早くなくなればいいのに.データ取られて怖いほど金持ってるわけでもないだろうに,ブスが痴漢されるの怖がってるようなもんだわ.