1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

小堀鷗一郎「死を生きた人びと」を読んだ

 なんとなくタイトルに惹かれて購入した本.
 医師である著者が在宅で死を迎える人について自身の経験や調査内容をまとめた本.具体的な内容としては,病気などで死が目の前に迫っているにも関わらずどこか他人事のように捉えてしまっている人たちの描写に魅せられるものがあった.
 寿命を宣告されてもまだだろうとかすぐにその日が来るわけじゃないだろうと無意識に思ってしまい,突然来るその日に慌てふためく様子が想像できた.とりわけ意外だったのは再入院や在宅など,環境が変わってまもない頃に容体が急変し亡くなってしまう例がいつくか見られたことであり,これは他人事ではないなという気になった.

 

石田衣良「七つの試練」を読んだ

ちょっっとだけ淡泊になったかな,そんな印象だった.前の巻まではストーリィにもうひと捻りあった気がする.うまく行くような感じを匂わせてからのピンチ,逆転,みたいな.4つのお話のうち,ハラハラしながら読んだのは本のタイトルにもなっている七つの試練という話.それ以外は解決困難,とか面倒とかってキーワードが並ぶ割にすんなり解決してしまった. 時事ネタが入ってくるのは相変わらずおもしろいし,ネットからはほんの少し距離をおいた視点で話が進んでいくところも気に入っているけど流石にちょっとネタ切れなのかな...

幡野広志「ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。」を読んだ.

 死が現実のものとして目の前に現れると人は意識がどう変わるのかが克明に標された本.これまでこういった本は何冊か読んできたが著者と年齢が近いだけに余計に親近感が湧いた.
 著者が息子さんに伝えたいと思っていることも大部分の意見には同意できるもので読んでいて確かに自身の中から湧き出てきた言葉を綴っていらっしゃるなという感じがした.ただこの著者の方が幸せだと思うのは自分のやりたいことをよく噛み締めていらっしゃることだと思った.やりたいことがわからないなら色々チャレンジしてみれば良いと仰ってはいるがもしそれにすら疲れてしまったら,,と思った.実際に今この本を読んでいる自分自身がまさにそのような状況で,辛いことの果に本当の面白さがあると思ってこれまで生きてきたが,やはり30年以上も生きているとある程度先が見えてしまって面白さが欠けてくる.ではどうすればいいのかというと妙案が浮かばずにただそういう時もあるさと今はじっと何かに出会うのを待ってみている.が,自分も寿命を宣告されるようなことがあれば,何か変わるのだろうか.本当にやりたいことは未だに見えていない...

村上春樹「アンダーグラウンド」を読みながら彩瀬まる「やがて海へと届く」を読んだ

 後者の「やがて海へと届く」をだらだら読んでいたところ,地下鉄サリン事件の首謀者達に刑が執行され,その過程で村上春樹の「アンダーグラウンド」がサリン事件の当事者達へのインタビューであることを知り,平行で読むに至った.
 アンダーグラウンドは当日地下鉄に乗り合わせて実際に被害にあった人たちの証言だけに非常にリアルで当時の状況が目の前に浮かんでくるようだった.すでに20年以上前の本であるにも関わらず読むべき価値はあるし,まだまだ教訓として何も活かせてはいないと思わざるを得ない.特に筆者と複数の証言者から出ていたマスコミへの不信感,真実を全く伝えていないという憤りは鮮明に伝わってきた.また多くの人が身の回りで起きていることを統合的に捉えることができず,直近の仕事を優先している様は意識改革のようなものの必要性を考えさせられた.
 今回このアンダーグラウンドを読むにあたって読書終盤に実際に小伝馬町駅まで行ってきた.さすがに20年も経っているので売店は見当たらなかったし,雰囲気も当時と違うのかもしれないが,改札がホーム中央にあるあたりは変わっていないし,駅から出たあたりに植木がしてあるのも確認できた.当事者の証言ではサリンの影響であたりが暗く見えている描写が無意識のうちに暗い構内をイメージしていたが実際はそんなことはなく普通の明るい構内に等間隔に柱が立っている至ってシンプルな作りの駅だった.ただこの3両目付近にサリンの入った新聞が蹴り出されていたのだとしたら改札に相当近い場所になり逃げる人の多くがその被害にあったであろうことが容易に想像できた.
 今回このアンダーグラウンドとたまたま平行して読んだ「やがて海へと続く」は,明記はしていないものの東北の大震災で行方不明になってしまった友人・恋人の話だった.帯にも書いてある通り,居なくなった人間に対して残された周りの人間の葛藤や故人との記憶,それらを通しての自分と他人との距離などを描写した作品だった.ちょうどサリン事件の数ヶ月前に起きた阪神大震災とオーバーラップするような形で作品を読んでしまったが,それ以上にアンダーグラウンドの最後の証言者に亡くなった方の両親・奥さんの証言が載っていたため,余計にこの2つの作品がオーバーラップして脳裏に刻まれた.
 あまり詳しくは書かないが,直感的に思ったのは事実は小説よりも重くて簡単に消化できるものではないということだった.これまで映画などの映像作品よりも小説の方が情報量が多いと思っていたが,それ以上にノンフィクション作品が心にズシンとくるものがあると思った.

湊かなえ「Nのために」を読んだ

 複数人の視点からある事件について語られる形式の本だった.視点の入れ替わりや時系列の前後などが頻繁にあり,読みやすいとは言い難い本.また登場人物の性別についても前半には明確な記述がないまま進んでいくので後半にイメージひっくり返されることまであった.
 内容的には面白かったものの,もう一捻りぐらいあるとなお面白かったかなと思った.特に主人公の一人,杉山の母親と野口の妻の共通点から事件の深層に一波乱何かあるだろうなと思っていたが,結局何も語られなかった.もしかしたら著者の思惑なのかもしれないが,どちらにしても結論まで登場人物各々の視点で何通りか描かれており,読んでいる側からすれば総合的,客観的に判断するしかないのでその辺の深読みをしようと思ったら,何回か読んでみるしかないと思われる.
 ここまで湊かなえは数冊読んでみたが,一旦打ち止めでいいかな.似たような内容ばかりになってきた.

湊かなえ「夜行観覧車」を読んだ

 被害者・加害者共に身内で関係者となった家族やその周りの家の人間を描いた作品.高級住宅街に昔から住んでおり雰囲気を守っているという歪んだ自覚をもつ人物などは面白かったが,内容的にはちょっと甘いかなという感じだった.
 最近出た小保方晴子氏の自伝などこの作品よりももっと奇想天外でドロドロの人間関係を描いた作品はあったように思う(すぐに名前は出てこないが).まあ夫を殺してしまった妻の描写がほとんどないことや,最後マスコミの記事風に書かれたことの顛末などから想像せよという話なのかもしれないがもう少し描けたのではという気がしないでもない作品だったと思う.

湊かなえ「贖罪」を読んだ

 言葉がいかに人の奥深くに影響を与え,その人の人生をも狂わせてしまうかを描いた本.設定はやや破天荒なところがあるものの,小学生が友達の死を目にしてさらにその親から罵倒され脅されるというストーリィは現実だったら精神的な影響はこんなものではすまないだろうなという印象だった.
 湊かなえの本はこれで3冊目だったが,嫌な女の描写が絶妙にうまいなと思った.特に自分目線での描写と他者からの描写の書き分けが絶妙で視点が違うとこう違ってくるのかというのがよくわかる.