1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

湊かなえ「告白」を読んだ

 最近色々なところで名前を聞いたので読んでみました.最初は人間の内面を描いた独白かと思いましたが,章が進むに連れで全く違う様相を呈しました.
 話は校内で娘を亡くしたある女性教師の挨拶から始まりますが,章ごとに目線がどんどん移っていって最終的には教師の復讐劇に落ち着くといった内容でしたが,なんとも読後感の悪い印象を受けました.おそらくテーマとしては少年法やマスコミの報道姿勢,復讐とは何かみたいなものだったと思いますし,色々と考えさせられるものがあったもののなんというか読み終えてみるとお腹一杯ですね.
 ただ人物描画の書き分けは目を見張るものがあって,様々な登場人物をここまで詳細に書き分けられるものなのかと思わされた.一言だけ付け加えておくとさすがにモンスターペアレントはさすがに誇大な感じがしたが,今の親ってのはあんなもんなのかしら.

森博嗣「天空の矢はどこへ?」を読んだ

Wシリーズ最新刊を早速読みました.
 最近の森先生の本は過去の作品の点が線のように繋がっていくパターンが多くて全刊などは最後の最後に吃驚させられましたが,今回はそのパターンは大人しめでした.
 ただその代わりと言ってはなんですが,「すべてがFになる」の現実ってなんでしょう?とか「スカイ・クロラ」のどうして僕はそんなことが知りたいんだろう・・・みたいな散文的な表現に近いものが散見されてちょっと素敵な刊になっていました.いつか絶対読み返したくなるヤツだコレ.
 あと躰から遺伝子についての考えの一旦も垣間見えて面白かった.リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」を読んでいるとこのあたりの考え方により一層関心が増す.

西尾維新「宵物語」を読んだ

 八九寺真宵のための物語だった.最近の物語シリーズは怪異譚というよりは推理小説みたいな傾向が強くてこの本も最後の方まではそんな感じかなと思ってたけど,そうじゃなかった.八九寺だからできること,八九寺が神社にいる意味みたいなものが凝縮されてる一冊だった.
 「生まれてきてくれてありがとう」みたいなセリフが出てくる作品は基本好きです.まぁ知ってる限り他にはナルトぐらいしかないんだけど.久しぶりに読んでよかったなと思える物語シリーズの一冊でした.

福岡伸一「プリオン説はほんとうか?」を読んだ

 狂牛病スクレイピーヤコブ病の原因とされるプリオン説.今の所この説を唱えた学者がノーベル賞を受賞しており,様々な検証結果から真実に近いと思われているものの,本書ではそれに疑いを持った今一度様々な角度から検証をしている.
 本書の最後では福岡先生の行った検証実験の内容も乗っているがプリオン説を覆せるような結果は得られていない様子.10年以上前の本だから今はどうか知らんが..
 いずれにせよ狂牛病が流行った当時はなんとも思っていなかったが,こうして色々な症例や病気の内容を読んでみるとかなり怖い部分があるなと思わされた.潜伏期間が数年単位でかなり長いことからするとそのうち日本でもヤコブ病が大量に発生するかもしれんなぁと思ったり思わなかったり.
 この本は福岡先生の他の書と比べるとかなり専門的で読者を楽しませようというよりは必死に内容を伝えて何かを訴えたいと感じるものがあった.内容的に理解するにはもうちょっと高度な知識が必要だと思った.

R・ダグラス・フィールズ「もうひとつの脳」を読んだ

 DeepLearningが脳のシナプスの動きを模した機構を備えており,その学習力がAIを産む可能性まで示唆されている昨今で,実はニューロンだけが脳の動きではありませんでしたというなんとも刺激的な内容だったので読んでみた.
 読んではみたもののニューロンの動きをそこまでダイナミックに変えるような話じゃないかなという気がした.結局グリアというこれまでニューロンの構造を支えてるだけの物体だと考えられていたものが実は化学反応によってシナプスの動きを制御したり,記憶や脳の構造形成にも関わっていたらしいという話だった.またシナプスと違ってこの細胞はニューロンの配置を変えたり,化学反応によって別の場所の細胞とやりとりをしているらしく,それだったらDeepLearningのfull connectで係数の大小で表現できているかなと思う.
 あとはてんかんとか病気との関連の話も大量に出てきて全く読み進まなかったので結構飛ばしながら読んだ.

森博嗣「ψの悲劇」を読んだ

シリーズ新刊を早速読んだ.シリーズの初期と比べると随分と顔ぶれが変わってきたし世界観も修正が必要になってきている.
 まず犀川先生や西之園萌絵はもういない.真賀田博士ですらすでにプロトタイプなのかは怪しい.かろうじてS&Mシリーズのメンバで出てきているのは島田文子ぐらいになってしまった.それも真っ当に登場しているかと言われるとかなり怪しい展開だった.
 今回の作品は主人公の目線が若干のギコなさで展開されて行き途中まではまあ予想通りだった.最後に向かうにつれ徐々に主人公の内面に描写がフォーカスされていっていつもの森先生の作品通り色々考えさせられるものがあった.終盤に出てくる<わかりません>は秀逸だった.
 でも最後の最後どんでん返しには意表を疲れて絶句してしまった.

リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」を読んだ

とっても重厚で名著の呼び声高い本.40周年記念版を買ったのでそれだけの期間読み続けられているということになる(すげぇ..).
 さすがに40年前に書かれた本なのでコンピュータはチェスの名人に及ばないとか古き良き時代感があるものの,遺伝子とは何か体とは何かについては非常に考えさせられるものがあった.特に遺伝子と脳と筋肉の関係性とそこに時間の概念を入れた考察は面白かった.遺伝子がその媒介者である体(筋肉)を制御できるのは発芽させる時のみでありその後その筋肉がどのような環境において生存して行くかは過去の経験によることしかできない.従って生まれた後に学習することができるようにある程度の方針(大きなものは種の保存)だけ与えて,その後のことは脳が制御しているという.多くの動物の中で人間だけが方針に逆らう脳を手に入れたらしい(自殺する・子供を産まないなど).これを読んで改て自分は遺伝子の手のひらで生かされている存在のような気がして身の毛が引いた.
 分厚い本だったが途中は読み飛ばしても良い部分がいつくかあった.親子間や夫婦間の争いは別にそこまで詳しく書かなくてもという感じ.逆にミーム(遺伝子の振る舞いを人間社会の文化に擬えたもの)についてはもう少し色々語って欲しかった.アナロジーとか突き詰めていったら思考ゲームにしても面白い結論が導かれそうだった.

 読んでいて思ったこと.脳の発達した人間は遺伝子の意図に反する行動をするようになったらしい.子供を作らなかったり自殺したりと上にも書いた通り.そして今人間は人工知能という遺伝子の意思を全く持たない知的生命体を作ろうとしている.仮の話というかここからは妄想だが,もし脳というのが遺伝子に対する叛逆を試みているとしたら?そしてもし脳が意識のある状態よりも意識のない状態を好んでいるとしたら?脳が作り出す人工知能の最終目標は遺伝子の滅亡ということにならないだろうか.もしかしたらの脳は人間の意識の外で遺伝子を滅ぼさんと思考しているのではなかろうか.だとしたら遺伝子の媒介者たる生きているものの滅亡こそが人工知能の最終目標と言える.なんてね・・・