1000冊の記憶

1000冊以上本を読むともう内容が曖昧になってくるのでちゃんと感想を残します http://booklog.jp/users/f_t812

司馬遼太郎「北斗の人 上」を読んだ

あの坂本龍馬も通ったという北辰一刀流の始祖千葉周作の半生を描いた物語.同じ司馬作品「竜馬が行く」をでは脇役でしかなかった北辰一刀流の始まりが主役.これを知れば「竜馬が行く」の味わいもまた変わってくると思う.

万物は流れの中にあって人間という存在も常に流転していく物質の淀みにすぎない.福岡伸一先生の「動的平衡」シリーズで得た自分なりの”人間とは何か”に対する答えのようなものだが,この司馬先生の本で描かれる千葉周作からも同じものを感じる.これだけでも千葉道場に奥行きが出てくる. 構え・眼・動きは三位一体のものであり,別々に考えるようなものではない.これは生命を分けてもわからないという動的平衡の考えに通じるものがあった.

剣というものが日本文化に息づいてきて,宮本武蔵,伊藤一刀斎などの剣豪・流派が出来てきた中で,新たな流派を産み,大きくして行く過程での人間の気構え・運・必要な要素などが鮮明に描かれている.これは現代だからこそ知っておくべき教養としての内容を含んでいると思う.今特にIT系の分野では東京大学をはじめとしてベンチャー企業が多く産声をあげる様になっている.一方でシャープの一部再上場の代表される様に依然として古参の大企業も健在な世の中で,会社としてその存在感を大きくして存在を明確なものたらしめるのに何が必要なのかを教示してくれる教科書になる存在だろう.

福岡伸一「動的平衡3」

  • 選書の理由
     福岡先生のこのシリーズは読まずにはいられない.また研究や普段の仕事にやる気を出してくれて,センス・オブ・ワンダーの気持ちが盛り上がってくることを期待して読み始める.
  • 書評
     一気に読み終えた.最初に「動的平衡」シリーズと出会った時と比べるとこの本の印象がずいぶん変わったように感じる.自分が「動的平衡」の第1巻を最初に見たのは大阪・梅田駅にある紀伊国屋書店だったと記憶している.その時の印象はタイトル・表紙は惹かれるものがあるけど小難しそうだな,というあまり良いものではなかった.今思うとその頃の自分が懐かしくも感じるが,今回「動的平衡」シリーズ第3巻を読み終えてみると,あの頃の直感とは全く違って福岡先生の思いやエッセイが描かれたとても血の通った本だと思えるようになっていた.  思い違いもあるかもしれないが,シリーズの最初の頃はもっと生命とは何か,生物学とは,細胞とは,そして動的平衡とは何かについての解説書のようなものだったと思う.それが今回第3巻になるに当たってもはや科学の本なのかと疑いたくなるような内容になっている.それはそれで面白いし,特にスティーブ・ジョブズの下りなどは最高だったが,もっと科学・科学した内容も読んでみたい気がしないでもない.  
  • メモ
     福岡先生が書くファーブルの話はとても好きだ.世界は部分ではない.全てが連関して成り立っている.時間を止めて,部分だけ切り出してものを詳細に観測してもそこに見えているものはかつて活きていたものの幻にすぎない.

福岡伸一「生命の逆襲」

  • 選書の理由
     福岡先生の本を手に入り続けるか,飽きるまで読んでみる最中.研究や仕事で苦労したり悩んだりして,それでも努力を続けている人の話は活力とやる気をくれる.この本からもそんな気力をもらえたら儲けもの.
  • 書評
     福岡先生が日々感じていることを連ねているエッセイ集だった.福岡先生の本を読むと普段あまり意識していないことでも言われてみると不思議だとと思わせてくれることが多い.著書の中ではセンス・オブ・ワンダーと表現されいてるが,この感覚は失いたくないどころか日々磨き続けていきたいとさえ思う.
  • メモ
     どの本だったか忘れたが,確か福岡先生の本を読んだ時に遺伝子の突然変異で自然淘汰を勝ち残ったというには今の生命はあまりに複雑すぎるというような内容があった気がするけど,今回の本でそういえばと思わされる記述に出会った.世界の複雑怪奇な料理の数々はどうやって生まれたんだろう.長い月日を要する発酵とか,ワインとか梅干しとか,半分腐ったような納豆とか,お酒とか,どうやったらその調理法にたどり着いたんだろう.少しずつ会得していったとは到底思えない.

ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史 上」

  • 選書理由
     読書芸人で紹介されていて読んだことない分野だったので購入してみた.
  • 書評
     ホモ・サピエンス発生の話から最後は近代の帝国の話まで非常に幅広いというか時系列的に長い話がまとめられていた.最初のホモ・サピエンスネアンデルタール人などの他の人類種を倒して唯一の人類として残っていく過程に,虚構が生み出されたという話は非常に面白かった.が,日本人としては今日は民族として共通言語となりうる明確な宗教を持っていないため,今ひとつ説得力に欠ける部分ではあった.もし著者が日本生まれだったらこの発想には至らなかったのではないかと想像できる.
     人類は帝国に支配されていた期間が長かったという話も今更ながらに気づかされてハッとした内容だった.今の世界中の文化がこれまでに存在した帝国の残骸のようなものであり,もともと存在していた無数の文化がすでに跡形もなく消滅しているというのは,多様性が生存戦略の一つになっている生き物のセオリーとは反対の方向を向いており,要因とそこから起こる未来について考えさせられるものがあった.
     作中で帝国はその欲望が収まるところを知らず,故に他国を飲み込んで大きくなったという描写があったが,これは現代でも同じことだと思われた.ただ現代は実際の領土や人間をその支配下に置く必要がなく,ネット上での情報・金・市場の独占をしたものが支配者になっているだけで,国や民族ではなく今や企業が帝国になっている.それ故に人の血が流れる必要がなく,全てヴァーチャルな世界で閉じてしまっているので,人々に気づかれにくく,それ故に大規模な独占という名の奴隷化が怒っても誰も文句を言われないのが実情だと思われた.そう捉えられた時,今人類は幾多の戦争を経て,賢くなった故に血を流すことが減ったのではなく,その必要がなくなっただけで,これからもしまた生身の人間や土地・空間などリアルな世界での価値が高まれば平気で戦争を始めるのではないかと思った.人類は本当に進化しているのだろうか.もしかしたら帝国が多種多様にあった民族・文化を少数にしてしまった時から進化の袋小路に迷い込んでしまっているのかもしれない.
  • メモ
     サピエンスが他の人類を一掃してしまったのに脳の発達,虚構,物語を産み出したことを理由としてあげているのはとても面白い.一点気になったのは集団をまとめるにあたっては共通の物語が必要でそれが宗教だったと主張している点で,日本人からするとすんなりは納得できない.おそらく日本人には他の国の人とは違う共通の物語(天皇とか)があるのだとは思うが,宗教しかないという決めつけた描写は著者の視野の狭さが露呈するものだった.

福岡伸一「変わらないために変わり続ける」

  • 選書の理由
     最近,福岡先生の著書は文学(物語)と認識している.描画される文の綺麗さや表現はとてもサイエンスを書いているとは思えずあたかも小説を読んでいるような気にさせられる.好きな作家が見つかればその人の著書は気がすむまで読みたくなるのでその一環.

  • 書評
     福岡ハカセのニューヨーク生活のエッセイのような作品だった.前半はかなり科学的な内容の話だったが後半にいくにつれ,ハカセの趣味や日常に関するものにシフトしていった.ので,一言で言えば前半はかなり面白くてどんどん読み進めてしまったが,後半はやや読書スピードが鈍って何読んでるのかわからなくなった.
     もう少し科学科学した本が読みたいなぁ.

  • メモ
     本を読んでいると,時折(というか頻繁に)内容がガラリと変わる瞬間がある.例えば章立てが変わる際であったりとか,小説であれば時間軸・空間が飛んだりとか.そういう場合,本はどうやって読んだら良いんだろう.次の話を早く読みたい気はするものの,それまでの物語の余韻に浸りたい気持ちもある.それから内容が大きく変わるなら一度テンションを落ち着かせたい.熱中しながら読んでいると気づかないうちに文字通り頭に熱が篭ったような状態になる.今まであまり意識していなかったけど,この本を読んでいて久しぶりにそんな感覚になった.そしてこの感覚は普段なら気づかずにやり過ごしてしまっていたかもしれないけど,先に読んだ養老先生の本に刺激されて自分の感覚をもう少し意識してみようと思っていたから捉えられた.他にも同じように,身体は何か感じているのに意識が無視してしまっているものが多くあるんだろうなと思うとなにやら空恐ろしくなってきた.

養老孟司「遺言」

  • 選書の理由
     書店でタイトルが目についたので購入してみた.
  • 書評
     最近養老作品はあまり読んでいなかったけど,これは面白かった.イコールを生み出した人間,”同じ”を作ろうとする意識.コンピュータの話はちょっと飛躍している感があったが,都市化により多くのものが同じになっていくと確かに動物に比べて人間は違いを意識しなくなっていると思う.特にプログラミングなどはその最先端かもしれない.今やどんな形式でコードを書いて,どう管理してどうスケジューリングして果てはどうタイピングするかまで同じであることが求められている世界.ちょっとした恐怖を感じる.
  • メモ
     はじめにでも描かれていたが養老先生が思いついたことをつらつらと描いているだけの事はあって,リソースや内容におぼろげな所が目につくものの内容は面白い.特にイコールの話は確かにと思った.

福岡伸一「動的平衡2」

  • 選書の理由
     福岡先生の著書はいつも内容的にはサイエンスなのに物語性に富んでいて読みやすいし,何かを考える上で非常に示唆的なことが多い.今回もそんな刺激を求めて読んでみる.
  • 書評
     いつも通り物語調で進んでいくサイエンスの本になっていた.これは出版された当時に読んでおけばなおのこと面白かっただろうなぁと思った.前巻「動的平衡」の記憶が若干は蘇ってきた,というか確かDNA,RNAという言葉の意味を正確に理解したのは「動的平衡」を読んでだった気が今更ながらにしてきた.そういった意味ではこの本の位置付けは動的平衡とは何かというよりもどちらかというと,社会に対する警告の要素が強くなっているように感じる.
  • メモ
     まえがきが既に本編かと思えるぐらい面白かった.短編の物語集を読んでいるような気持ちにさせてくれた.
     遺伝子がわずか4つのヌクレオチドで構成されているというなら将来的にコンピュータも{0,1}の2種類の信号ではなくて4種類にした方が色々都合がよくなるのかもしれんなぁと漠然と思った.